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2018年8月13日 (月)

剣聖との腕くらべ 弐 「前橋」 - 信おん御伽草子(名称変更しました)

《前橋》

前橋の神社にて行われた神事は、
『神矢奉納の儀』と呼ばれ、
清められた矢を神々に納めることで、
民や町の平安を願うものだと言う。


的に目掛けて矢を放ち、
その成功具合によって吉兆を占うのだが、

この的が曲者で、
通常よりもかなり遠くのもの、
あるいは小さなものなどが用意されている。


そうなると、ご想像の通り、
人々の運勢を握るのは、
射手となる神主や巫女の腕次第。

自然とその射手依頼は、
実力確かな流派に殺到することになる。

由美たち『神鳴流弓術』一派も、
そんな流派の一つであった。

そして、今。
再び大きな歓声が湧く。


由美が同時に放った二本の矢。

それらが、意思を持つかのように風を切り、
離れた場所に掲げられた、
二つの扇の中心を貫いた。


次々と披露される妙技に、
観衆たちは大喜びだ。


そんな活気を肌で感じているのだろう。

歓声を受ける由美の表情は、
とても晴れやかで喜びに満ちている。


「お姉ちゃん、かっこいい!!」


集団の中から、
賛辞の声をかけてくる見知らぬ子供たちに、
由美は小さく手を振って応えていた。


…ん?


今、
離れた場所から眺めている虎空に気づいたのか、
由美はそちらにも同じように手を振って見せる。

虎空は和かに、会釈してそれに答えた。

そんなこんなで、
兄の代わりに前橋の神事に赴いた由美は、
見事にその役目を果たし、
多くの人々を笑顔にする事が出来た。

『去年来ていた、ごついお兄ちゃんよりも、
今年は華があっていいねぇ!』

なぁんて声も、虎空の耳に届いていたが、

「…拙者は何も聞いてないでござるよ、
聞いてござらん…うん」

せっかくの晴れ舞台に、
余計なケチをつけることもない。
一人苦笑して、
そういうことに決めたのであった。


無事に神事を終えた由美は、
沢山の人々に感謝をされて神社を後にした。

丁寧なお辞儀をした後に向かったのは、
神社より町の奥へと入った場所。

大きな道場の正面にある茶屋である。


「…あ、虎空さん!」

目当ての者を見つけると、
由美は笑顔を浮かべ、小走りで其方へと近寄る。


名前を呼ばれた虎空は、
手にしていた湯呑みを下に置くと、
スッと立ち上がり、彼女を迎えた。


「すいません。お待たせいたしました」

「いやいや、お気になさらずでござる。
街行く人々を眺め、楽しかったでござるよ。

由美殿、お勤めご苦労様でござったな」


労いの言葉に微笑むと、

「はい、ありがとうございます。
無事に終わったので、ホッとしました」

そう答えた。


虎空に促されて、
茶屋の腰掛けに座ると、
茶屋の女将がやってくる。


お茶と何か甘いものを。

由美はそう注文して、
ふうっと息をついた。


「お疲れでござるか?由美殿」

「あ、いいえ。
先ほど言った通り、安心したんです。

兄の名代として参りましたから、
失敗は出来ない、と。

それに、
こちらの方々をがっかりさせてしまいますから」


「がっかりなんて、とんでもないでござる。
皆の衆、それはもう大喜びの大喝采。

誰も彼も、ニコニコ笑って、
それはもう楽しそうでござった」


大袈裟に手振りを添えて話す虎空に笑顔を向けて
由美が答える。


「ええ。皆さまに喜んでいただけて、
本当に良かったです」

「うむ。さすがは由美殿。
大成功にござるよ」

「ありがとうございます」

やがて、由美のお茶も運ばれてきて、
小さな干菓子と共に楽しんでいると、


「あ、いたいた!
巫女のお姉ちゃん!」

そんな声が聞こえてきた。


その場に巫女らしき人物は、
由美しか見当たらない。


声のした方を見ると、
一人の少年がこちらへ駆けてくるのが見えた。

質素であるが、整った服装、その佇まいから、
どこかの武家の息子であろうか、
そう伺えた。


彼は由美の前までやってくると、
あがった息を整えながら、
こう切りだす。


「巫女のお姉ちゃん!
さっきの弓、すごかったよ!
俺、あんな技初めてみた!」

顔を上気させて話す少年に、
由美は微笑みながら答えた。


「まあ、ありがとう。
見ていてくれたのね?とても嬉しいです」


「俺さ、強くなりたくて稽古してるんだ。
馬にも乗れるようになったんだぜ。

今日さ、お姉ちゃんの弓を見て、
俺もあんな風に射れるようになりたいと思って…

それでね、お姉ちゃん。
俺に弓を教えてくれないか?」


真っ直ぐな瞳に見つめられての言葉に、
由美は目を丸くする。

「え、私があなたに?」

「うん!頼むよ、この通りだ。
お願いします!!」


言葉と同じく、
勢いよく頭を下げる少年の前、
由美たちは、面食らった表情で、
顔を見合わせたのだった。

「ええと、と、とりあえず、
頭を上げてくれるかしら?」

と、由美が少年に声をかけた時、


「ふ、ふふ…ふわっはっはっは!!」

大きな笑い声とともに、
大きな身体をした侍が
大きな態度で近寄ってきた。


少年といい、千客万来だ。


「おい、小僧!
本当に強くなりたいのであれば、
これを極めるべきだぞ?」

侍は腰のものをポンと叩きながら、
そう話す。

「剣に比べれば、弓など非力なものよ。
剣術の腕を磨け!わっはっはっは!」


厳つい顔立ち。
ギラリとした光を放つ瞳を細め、
愉快そうに笑う。


しかし、流石に無礼だ。


虎空は静かに立ち上がると、
彼の前に歩み寄り言う。


「随分な物言いにござるな。
さぞかし高名な武芸者とお見受けするが、
どこの誰にござるか?」

静かだが、確かに怒気のこもった声。


いつも、一緒にいる由美はすぐに気がつき、
その肩をピクリと震わせた。

高名云々は嫌味のつもりだったが、
得てしてこういう輩には通じぬもので、

「ふむ、では名乗るとしよう。
我こそは、西国にその人ありと知られた剣豪、
『大泉龍童』である」


知らぬでござるなぁ…


少し考えての、先の結論。

その沈黙を、都合よく、
驚いて声も出ないととった龍童は、
ニヤリと笑って続ける。

本当に都合よく解釈するものだ。


「この上野で剣聖と謳われる『上泉信綱』と、
是非腕くらべをしたいと思い来てみたが、
奴め、恐れをなして逃げ出したか、
何処にもおらぬのだ。

強すぎるというのも、退屈なものよな。
わっはっはっは!」


そろそろ聞き飽きてきた笑い声が響く。


剣聖『上泉信綱』の名は覚えがある。

上野で知らぬ人は、
いや、全国に名を轟かせる剣の達人だ。


小泉云々とは、格が違うでござろう。
…大泉であったか?


「そうでござったか。それは難儀、難儀。
まあ、話はわかったでござるから、
どこかに行くでござ…」


「おお、お主、
見れば中々の腕を持っておるように感じるな。

どうだ?
我と勝負をせぬか?」

追い払おうとした虎空の言葉を切って、
龍童はニヤニヤと笑いながら、
そんなことを口にする。


「勝負、でござるか?」

「左様。
そうだな…うん、虎を狩ってきて、
その牙の数を競うのはどうだ?」

『虎の牙』集めを、
楽しげに提案してきたが、

「拙者、無駄な殺生は好まぬにござるよ。
それに、買いかぶってもらっても困る。

拙者、そこらのネズミにも手こずるほどの、
未熟者にござるゆえ」

すっかり、いつもの口調に戻ってきた虎空。

そんな言葉を聞いて、
由美が口元を押さえて肩を震わせている。

今度は、可笑しくて、である。


「なんだ、そうなのか?
随分と立派な忍び鎧を着ておるから、
そこそこの手練れかと思ったが、
間違いであったか。

まったく、つまらん、つまらん。
つまらんな、わっはっはっは!」


龍童は、つまらんと言いながら、
来た時と同じく、豪快に笑いながら去って行く。


大きな肩を揺らして遠ざかる後ろ姿を見ながら、
虎空はため息をついた。

「やれやれ、とんだ御仁でござったな。
ん?由美殿?どうしたでござるか?」

振り返った先で、
由美がクスクスと楽しげに笑っている。

「ふふふ、ごめんなさい。
だって、ネズミさんに苦戦する虎空さんなんて、
ふふ、想像したら可笑しくて…」


「えー、拙者もそんな時期があったでござるよ。

だいたい、
あのネズミたち、本当にネズミにござるか?
あまりにデカすぎにござる」

「本当ですね。
私も修行中には、ビクビクしていたものです。
懐かしいわ」

「一匹を相手にしようと思ったら、
ゾロゾロと援軍が来て、
えらく困った時もあったでござるなぁ…

囲まれて、逃げるのに苦労したでござるよ」


「ネズミさんから逃げる虎空さん…?
ふふ、あははっ、だめです、可笑しいっ」


目に涙まで浮かべて笑う由美。


そんな様子で、楽しく話す二人であったが、
会話に夢中になって、
そばに立っていた少年のことを一時忘れていた。

後に、それを後悔することとなる。


唇を噛み、悔しそうな表情で、
龍童の背中を睨みつける少年。

もし、この時に、それに気がついていれば…


〜続く〜
次回「剣聖との腕くらべ 参」
後悔

☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、
伝承、システム、設定等とは一切関係ありません。

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